A-POWER 10月号掲載
文:高野博善
写真:佐藤安孝
類い稀な名馬のルーツは野生馬にあり


名実共 第一級スーパースポーツカーとして
世界的に広く認知されているフォードGT。
その家系図を遡ればマスタングと
DNAが同じ一族であることがわかる。
特にサリーンとは切っても切れない関係。
60年代のル・マンを席巻したGT40を現代に甦らせたフォルムを持つが、開発段階では300km/hオーバーの領域で空力特性に問題が生じため、アンダーボディ形状は時間をかけて徹底的に煮詰められた。エンジニアの苦心により、往年のスタイルと現代の高性能が両立できたのだ。 300km/hオーバーの性能を持つクルマとしては極めて静粛性が高く、車高も低すぎないため街乗りで苦痛を強いられることは少ない。そんなところにフォードらしさが光る。その一方で、欧州のスーパースポーツのように旦那向けの2ペダルは用意されないスパルタンな面も。
   
ボディ/シャシーはアルミ製だが、
ボンネットカウルはグラスファイバー製。
デトロイトのサリーン新工場で生産された。
通風穴だらけのシートはかつてのGT40から受け継がれたモチーフ。
乗降性は存外に良好。

マスタング&サリーンのDNAを受け継ぐ


フォード創立100周年を記念して復活したフォードGT。 予定していた1500台の生産は終了した。 この夏、名古屋のウイングオートに2台も入荷したとの知らせを受けたのもつかの間、 すでに1台はオーナーの手元に渡ったというから完売するのも時間の問題で、 新車として取材する機会はおそらく今回が最後になるだろう。 フォードGTの開発を手掛けたチーフエンジニアのニール・ハンネマン氏は、 サリーンのレーシングスポーツカー「S7」の開発にも深く携わった人物で、 クルマとしての成り立ちやコンセプトは大きくかけ離れてはいるが、 フォードGTとマスタング&サリーンは同じDNAを受け継いだ血縁同士といえるため、 あえてマスタング特集の先陣を飾ってもらったというわけだ。 レーシングカーさながらにアルミ製のスペースフレームへとマウントされるV8ユニットは 眺めているだけでも目の保養となるが、豊満なシリンダーの谷間に挟まれた イートン製のスーパーチャージャーがブチ込む83kPaものブースト圧により ゼロヨン11.7秒を叩き出し、いともたやすく330km/hに達する。 これだけのパフォーマンスを持ちながらトラコンやESPといった安全電子装備が用意されない、と聞くと 身の毛がよだつ気もするが、そんな軟弱装備に頼る必要もないほど挙動はコントローラブルであり、 またそれに頼るようなドライバーのためのクルマではないということだ。アブク銭では乗れないクルマである。

野生の原種とは別物の進化を遂げた競走馬


「サリーンS281はマスタングの高性能バージョン」

その説明は正しくもあり、誤りでもある。
アグレッシブなエンスーに深い満足感を与える高性能スポーツカーに
発展している点においては、もはやマスタングではなくなっているからだ。

スティーブ・サリーン氏の直筆サインや、シリアルナンバープレートなど、 希有なる限定車を所有する喜びをオーナーは堪能できる。 サリーン社自家製のスーパーチャージャーのブースト計、吸気温度計も備わる。
              

単なるマスタングの高性能版にあらず


レーシングドライバーとして輝かしい経歴を持つ スティーブ・サリーン氏がサリーン社を創設してからすでに23年。 今やサリーン社は一介のチューナーのレベルを遥かに超越し、 世界でも屈指の技術力を持つフォード社のレーシング部門として、 高性能モデルの開発や生産を請け負うメーカーへと成長を遂げた。 アメリカではフォードのディーラーで、 一般的なフォード車とまったく同じように取り扱われていることから、 フォードとサリーンはメルセデスとAMG、 あるいはBMWとアルピナのような密接した関係にある。 8000万円を超える「S7」の上陸が騒然とした話題となったなど、 日本においてもその知名度は徐々に向上しており、 現行型マスタングをベースとした高性能コンプリートカー「S281」は、 アメ車ファンのみならず、幅広い層のカーガイたちから熱い視線を浴びている。 「S281」は、フォードGTと同じくフォード創立100周年の記念事業のひとつとして誕生したブランドで、 3-VALVE/SUPER CHRGED/EXTREMEの3つのグレードが設定されており、 それぞれパフォーマンスの違いにより性格を分けられている。 今回の取材車両は中間に位置する「SUPER CHRGED」で、動力性能から制動力、 ハンドリングにいたるすべてのポテンシャルを大幅に向上。 マスタングとは明確に一線を画す、まったく別物の高性能モデルとして認識するべき存在である。

荒れ狂った猛牛と従順な駿馬



フォードGTの仮想ライバルはフェラーリ360モデナだが、今回はあえてランボルギーニ・ディアブロにご登場願った。ある意味もっとも性格の異なるスーパースポーツと並べることで、フォードGTの存在感の強さを試してみたかったのである。
マニア垂涎のシリアルプレート。レースに未出場のGTRはこの1台だけかも知れない。絶望的な後方視界を改善するべく、リアビューカメラが標準で装着された。
強い踏力を必要とする強化クラッチは日本の市街地では扱いが困難。最高速度は338km/h!


希代の名車を前にしても一歩も譲らぬオーラ


ディアブロがデビューした90年、ランボルギーニはクライスラーの傘下にあった。
デザインの草案はイタリアの巨匠マルッチェロ・ガンディーニが線を引いたものだが、
当時の親会社のクライスラーのデザイナーが修正を加えて完成させたもので、
インテリアにいたってはすべてクライスラーのデザイナーが手掛けている。

そう、実はディアブロは、
意外にアメリカとの縁が深いスーパースポーツなのである。


01年に生産を終了してすでに久しいが、ウイングオートが所有する「GTR」は、
最終型に近いモデルで、大幅な手が加えられたコンペディション用。
パフォーマンスやスペックにはフォードGTとの共通点が少なくなく、
今日で ものお相手は十分に勤まるとみてご参加願った。
世界限定30台の超希少モデルでもある。
そのままレースに出られるほどのコンペディションモデルだけに、
アイドリング状態でさえエンジンの音量は凄まじく、 普通に移動するだけで
名古屋市内でル・マンを開催しているかのような猛々しさだ。
街中を転がすだけでも荒れ狂った猛牛を手なずける技量と精神力を必要とするので、
これに比べればフォードGTは夢のように扱いやすい従順な駿馬といえる。
逆に、ディアブロGTRの強烈過ぎる存在感の前では霞んでしまうことを懸念したが、
それは杞憂だった。 180度異なる性質ながらも、フォードGTは希代のスーパースポーツの代表格と並んでも 一歩も譲らぬオーラを発揮したのだ。