華やかな60年シンボル! 紆余曲折を経て、再出発
  1960年代中盤〜後半、アメリカで一斉を風靡したフォード・マスタング。
  その開発主旨とは「誰もが気軽に乗れるお洒落なクーペ」。マスタングのロゴはサラブレッド・ホースなのだが、マスタングの本質は「誰でも乗れる子馬(ポニー)」、つまり「ポニーカー」なのだ。
  ところが、他メーカーはシボレー・カマロ、ダッジ・チャージャーなど「筋骨隆々の荒馬(マッスルカー)」としての風貌も強調し始めた。フォードとしては、マスタングのマッスルカー化が急務となった。レースの世界にも飛び込み、「シェルビー」との運命の出会いが訪れることになる。
  だが70年代初頭になると、マスタングに強い逆風が吹き始めた。厳しい排気ガス規制(通称マスキー法)とオイルショックのダブルパンチである。レース活動は休止され、マスタングマッスルカー関連の外部チューナーも次々倒産してしまう。
  その後、マスタングはセクレタリーカー(女性秘書などが通勤に使う小型で手軽なクーペ)に成り下がってしまう。1993年には、ハイパワーモデルとしてSUV(スペシャル・ビークル・チーム)ブランド戦略が開始されたが、現状では開店休業状態に近い。
  こうした紆余曲折を経て、現行マスタングは「60年代への原点回帰」戦略が見事に成功。ハイパフォーマンスマスタングの新時代が始まった。
     
   サリーンでは現在、マスタングが「281」と「302」、F150ピックアップが「331」という商品ラインアップだ。
  マスタングでは、エンジンの絶対的出力差によってグレード展開を行なっている。そのベースとなるエンジンは、4.6リッター・SOHC・V8。排気量をキュービックインチ表示して「281」と呼んでいる。ベースモデルの最高出力は300hpだが、これをサリーンでは、いわゆる吸排気系+ECUチューニングを施して、335HPの「S281・3V」に仕上げている。さらに「S281 Super Chargerged」では一気に、465hpに引き上げられているのだ。

  対する「302」ユニットは、「281」のベースとなる4.6リッター・SOHC・V8に、サリーンオリジナルのピストン、カム、クランクを組み込んで5リッター化。「H302・3V」で390hp、「H302 SuperChargerged」が580hp、さらに「S302 エクストリーム」「スターリング・エディション」は620hpを叩き出す。「281」「302」共に、搭載されるスーパーチャージャーはリショルム式(アメリカではツインスクリュー式と呼ばれている)である。

  では、今回取材の「S281Super Chargerged」の詳細を見ていこう。ボディワーク全体はマスタング本来のガッシリさに、さらなる重厚感を覆い被せている。エンジンフードはアルミ製にスイッチし、その中央後部にはエンジン内部の放熱用の加工。フロントバンパー左右にはブレーキ冷却ダクトへのインテークが切られている。サイドスカートは中央部を大きくエグり、サイドビュー全体でのドッシリ感を演出している。リアビューでは、センターボディパネル、リアウイングを変更。HIDヘッドライトやボディカラー同色のサイドミラーカバーなどはオプション設定だ。インテリアでは、200マイルフルスケールのスピードメーターにサリーンのロゴ、ブースト計などを新設。アルミ式のペダル、特注レザー製のドライビングシートなどを備えた。

  筆者は以前、同車でサーキット走行をした。その際の印象は、スポーツサスは思ったよりハードではなく、日常的ドライブをかなり考慮している。だが、サスが引き締まったことと、ピレリロッソのショルダーの硬さによる路面からの応答性の向上から、ハンドリングはキビキビした気持ち良さを感じた。
  エンジンのパワー/トルクの発生は、シェルビーGT500と同様に、低回転域ではアクセル操作に対しての唐突さはなく、扱いやすいマイルドな味わい。中回転域ではズッシリとしたトルク感が車内に拡充。と同時にスーパーチャージャーの作動音がそれなりに聞こえるが、これは「チューニングカーらしさ」としての許容範囲。
  「見た目の迫力にしては扱いやすい」。そんな「S281 Superchargerged」である。
 
 

S281SCに搭載されるエンジンは4.6リッターV8SOHC。だが、スーパーチャージャーが追加されているため、最高出力は435馬力、最大トルクは58s -mを叩き出す。
 
 
  ブラックアウトされた7スポーク20インチホイール&ブレンボ製ブレーキで足元を武装したばかりか、リア周りもウイングやバックパネル、マフラー換装で存在感を高めている。  
 
コンソール中央に追加メーターが備わっているなど、スポーツテイスト色が高められたインストゥルメントパネル。 リアバンパーに刻まれたSALEENのロゴによって、まさにこのマスタングがスペシャルなモデルであることを印象付ける。マフラーも換装され、存在感を掻き立てる音を響かせる。 シートは、サリーン専用の本革製セミバケットタイプが奢られている。シートバックにはもちろんサリーンのロゴが刺繍されている。
 
     
  サリーンとはどんなメーカー?
  80年代後半、アメリカで(当時の)CARTインディカーシリーズのTV中継番組を見ていると、マリオ・アンドレッティなどの有名選手の中にスティーブ・サリーンも交じっていた。サリーン氏は80年代中盤から、フォード系マシンを扱うレースチームを運営していたのだ。
 その後レーサーとしての未来に見切りをつけたサリーン氏は、自動車アフターマーケット事業に専念する。マスタングを中心とした自社製品の開発を地方レースと公道で続けた。80〜90年代、フォードとしてのモータースポーツ活動は低迷期であり、外部レースチーム&外部チューナーのサリーンはフォードにとって、「絶好のパートナー」になった。
 その後、サリーンブランドのマスタングをフォードの正規ディーラー店舗で販売。フォードGT新車のアッセンブリング(最終組み立て)のサリーンへの完全委託など、フォードとサリーンの蜜月体制が続いている。
 
 
【SALEEN S281 EX】 【SALEEN S281 SC】BAD BOY Edition Convertible
 
   サリーンからラインナップされているモデルは数多い。S281シリーズでは3V・SUPERCHARGED・EXTREMEがある。302(5.0L)シリーズもS281同様3グレード構成となっており、コンバーチブルもある。
 それ以外では、F150をベースにスーパーチャージャーが搭載されたS331がある。こちらも出力が450馬力とハイパワー。
 
     
  シェルビーらしさが充満 着飾る楽しさで気分爽快
「シェルビー」と聞いただけで、ビビッてしまう人も多いはず。
  そりゃ60年代バリバリの「マジのシェルビー」を日本の街で乗ろうというのは、かなり勇気がいる。その性格たるや、まさに荒馬。キャブレターの絶妙セッティングを施せる凄腕メカなんて、日本にゃいやしない。アメリカ本国でも、最近は「柔なコンピュータチューニング」なんぞに慣れた連中が多く、「マジのシェルビー」を扱い尽くせるヤツラは極少だ。

  また近年、テキサス州内の業者などと、キャロル・シェルビーとの契約によってレプリカGT350、同GT500などが販売された経緯がある。だが、シェルビー氏自身はこうした「外注シェルビー」に対する考え方を大幅に見直すとしている。
  では、ネバダ州ラスベガスにあるシェルビー本社が放つ新型シェルビーマスタングたちなら、どんなモデルがお勧めか?
  最強の「スーパースネークパッケージ」になると、フォード一般ディーラーでの市販型シェルビーGT500(5.4リッターDOHC・V8+イートン製スーパーチャージャー)をベースに、600馬力化。さらにオプション設定として、驚愕の750馬力バージョンまで用意されている。

  ここまで大掛かりになるのが「怖い人」のためには…。V6エンジン対応として注目されているシェルビー「CS6」がある。アメリカの老舗スーパーチャージャーメーカーとして知られるパクストン社との共同開発バージョンだ。外観がターボチャージャーに似た、セントリフューガル(遠心式)スーパーチャージャーをV6ユニットに組み込んだ。イートン製のルーツ式(最近は、第三世代スクリュー式とも呼ばれる)を後付けするとなると、スーパーチャージャー自体がエンジンのVバンク中央に位置するため、補機類の配置が難しい。対するパクストン製は、取り付け位置の自由度が広いのが特徴だ。

  こうした各種のシェルビーに「一歩でも近付きたい」という人々のために、新たなる道が開かれた。それが、シェルビー・スポーツパッケージだ。
  ザックリと表現してしまうと、エクステリア/インテリアをシェルビーGT500っぽく(いやそれ以上にハイパワーシェルビーっぽく)見せてしまおう、というファッショナブルアイテムである。ベース車両となるのは、4.6リッターSOHC・V8搭載車、4.0リッターSOHC・V6搭載車どちらでもOKだ。
  フロントビューでは、シェルビーっぽいガッシリとしたバンパー、アッパー&ロアグリル、フォグライトの組み合わせ。さらに、エンジンフードもスーパーチャージャーの気配を感じさせる演出が施されている。サイドビューでは当然、大柄で角状のサイドステップが目立ち、さらには20インチタイヤ&ホイールが重厚さを強調。リアビューではリアスポイラーを装備。またオプションとして、ボディセンターの大型ストライプ(デカール)も用意されている。

  インテリアには、アップグレードキットが用意されて、サテンアルミを散りばめたレーシーな演出が魅惑的だ。
  さらに、ユーザー側のリクエストによって、サスペンション、エンジンのチューニングへと手を広げることも可能。
  つまり、シェルビースポーツパッケージとは「まずは、カッコからシェルビーっぽくして、気分を整えてから、マジ・シェルビーに向かう階段を上っていく」アイテムなのだ。手の届かないドリームカー・シェルビーが、少しだけ身近に感じられるようになるかもしれない。
 
 
やはりマスタングの最大の特徴はマスクであろう。それをさらに強調するかのように、シェルビー専用パーツですっかりと塗り替えられている。力強さが一層増した印象だ。
どこから見てもGT500そのものといったディテール。装着されているパーツがGT500用であるのだから、まさに雰囲気はシェルビー。 センターキャップにはシェルビーのロゴにコブラのイラストがデザインされ、リムにもシェルビーの刻印を施すなど、まさしくシェルビーであることを強調した20インチホイール。
 
 
シェルビーとはどんなメーカー?
 日本ではよく、シェビー(Chevy)とシェルビー(Shelby)を混同することがある。これは、日本語の発音ではかなり似ているからだろう。
 ちなみに、ChevyはGMのシボレー部門の略称。Shelbyは、元レーサーで後にチューニング/レーシング事業に転じた、キャロル・シェルビー氏のことである。
 シェルビーの名が世界に最初に轟いたのは、ご存知ACコブラ。同車でのレース参戦後、シェルビーが目を付けたのが、当時発表間もなかったマスタング。ルマン24時間でGT40の改良プロジェクトに携わったシェルビーは、マスタングでレース仕様GT350を考案した。だが、70年〜80年代にかけてマッスルカー不遇の時代となり、シェルビーの活躍の場は制限され、フォードとの関係も薄れていった。その後、フォードGT、現行マスタングでは、シェルビーは「フォードのセミワークス・ブランド」として再び脚光を浴びるようになった。
  また近年、シェルビーの商標による様々な事業が、キャロル・シェルビーの意思とは別に氾濫した。現在、シェルビーでは、各種権利関係を再編し、次世代シェルビーブランドの構築を進めている。
 
【SHELBY GT500】 【SHELBY GT500KR】
 
  今回取材したシェルビー・スポーツパッケージは、そのラインナップの中では最下級グレード。装いだけでもシェルビーを堪能したいといった人にオススメだ。しかし「やはり本物にコダワりたい!!」という人にはGT500、あるいはGT500KRなんていうモデルも存在する。500馬力以上を叩き出すモンスターマシン。一度は味わってみたいモデルだろう。  
 

 

 2006年4月、ニューヨークモーターショー、フォードブースでの記者会見。それを最前列で聞いていた筆者は我が耳を疑った。何と、シェルビーが手掛けるマスタングをレンタカーにしようというのだ。それも全米最大ネットワークを誇る、レンタカー最大手のハーツ社と手を組むという。「シェルビーGT-H」の「H」は「Hertz」である。
 同会見に出席したキャロル・シェルビー氏は「多くの人が気軽にハイパフォーマンスカーを楽しんで欲しい」と、涼しい顔。こっちとしては「シェルビーのオジィちゃん、なに血迷ってンだ!?」と思うばかり。なぜかといえば、筆者の眼前にある「シェルビーGT-H」のエンジンフードには、レーシングカーで常設されるピン式のクイックリリースが付いている。こんなレンタカー、見たことない(!!)。また、235/50R18を履くサスは、前後とも1.5インチ(約4.3cm)もローダウンしているのだ(!!)まあ、エンジンは、マスタングラインナップの中では大人しい部類に属する「281(4.6リッターSOHC・V8)」。それでも、シェルビーチューンを施して最高出力は319HPに仕上げた。インテリアは派手なエクステリアと比較すると地味(=ノーマルGTと大きな違いなし)なアレンジに思える。
 2006年4月16日、シェルビーのラスベガス本社で「シェルビーGT-H」が製造開始(限定生産台数500台)。この42年前、初代マスタングが発売開始されている。

かつてハーツは、ホモロゲーションモデルであったシェルビーGT350をレンタカーとして採用していたわけだが、現行モデルでも再びよみがえった。ミッションをATに換装し、当時と同じボディカラーであるブラック×ゴールドまで再現。エンジンは4.6リッターV8を搭載。
 


 

 「○○エディション」と呼ばれる限定モデルがよくある。その○の中には、往年の名車や名選手の名が刻まれている。パーネリー・ジョーンズは、1950〜70年代にアメリカで活躍したレーシングドライバー。愛称はPJ。AJフォイトの良きライバルとしても知られている。1953年、まだフロントエンジンだったインディカーで栄光のインディ500を制した。筆者もPJに何度か会っているが、物腰の穏やかな好紳士である。そのPJ、1970年に米国ツーリングカーレースのTrans-am(トランスアメリカの略称)シリーズにマスタングで出場していた。当時はカマロ、コルベット、チャージャーなど、マッスルカー全盛期(=末期)の大激戦。「グラバー・オレンジ」カラーに角々っとしたブラックストライプがお洒落なゼッケン15番マスタングは、当時の若者たちの憧れの的だった。
  さて、フォード社による現行マスタングの狙いとは「60年代マスタング全盛期への原点回帰」だ。そのトレンドをサリーンがうまく捕らえたモデルが「パーネリージョーンズ・リミテッドエディション」だ。ベースモデルは、サリーン「302(5.0リッターSOHC・V8・400HP)」。当時のカラーリングを忠実に再現し、フードは「Shaker」デザイン。フロントグリル、リアパネル周りはクローム処理。前後バンパー、サイドスカートも専用設定、リアウイングは「BOSS 302」のレプリカ。インテリアも「グラバー・オレンジ」。熱き良き時代を思い起こさせるこのマシーン、マスタング好きにはタマラナイ1台だ。

レーシングカーそのものを体現したといっていいフォルムで、熱い走りを予感させる姿に魅了されてしまう。フロントスポイラーやフードスクープ、それにリアウイングやウインドールーバーなどは、まさにBOSS302を彷彿させるアイテム。それにカラーリングも忠実に再現。
 

 

  まさに、コレクタブル(希少価値の骨董)だ。2000年のLAモーターショーにコンセプトモデルとして初めて登場した「BULLITT」。ちょうどアメリカはITバブルが崩壊した頃。また、その当時のユーザーは、まさか次期モデルが「60年代へ原点回帰」するとは思っておらず、多くのアメリカ人は「マスタングの使命もそろそろ終わったのかも…」と感じていたはず。そんなマスタング混迷期に風穴を開けたのが2001年、「GT」モデルをベースに登場した「BULLITT」だったのだ。
  そして05年モデルからデザインが一新され、60年代モデルを彷彿とさせるスタイリングへと生まれ変わったマスタング。新たに世代が変わっても「BULLITT」は受け継がれた。原点回帰が図られた現行モデルこそ、「BULLITT」を再現するには相応しかったのかもしれない。先代モデルでは、イマイチ「BULLITT」らしさに欠けていた印象が強い。
  「BULLITT」のパワーユニットは4.6リッターSOHC・V8。フォードのレーシングテクノロジーによって315hpにパワーが引き上げられているばかりか、シェルビーGT500用のパーツを組み合わせるなど、ポテンシャルは高い。それに、当時の「BULLITT」を思い起こさせるボディカラーやホイールなど、各所の処理が見事に施されているのも見逃せない。まさに気分はスティーブ・マックイーン!! しかし、それを堪能できる人はたったの7700人だけだ。

映画「ブリット」で、スティーブ・マックイーンがカーチェイスを繰り広げた際の相棒を務めたマスタングのスタイルをそのまま再現したのが、このブリット・マスタングだ。ボディカラーの深いグリーンを始めとし、ホイールもブラックアウトされているほか、魅力が満載。
 


 

  「あのエレノアが復活したのか!?」。そうビックリするアメ車ファンの方も多いだろう。エレノアとは、1967年型シェルビーGT500のことだ。その姿が日本、さらにはアメリカで注目されたのはハリウッド映画「60セカンズ」だった。主演は人気男優、ニコラス・ケイジ。役どころは、元クルマ泥棒。悪行から足を洗い平和な日々を過ごす主人公だったが、悪党一味に最愛の弟が監禁された。多勢に対してたったひとりで立ち向かっていく主人公。その相棒が67年型シェルビーGT500、エレノアだった…。この「60セカンズ」は、70年代初頭に公開された「バニシングin60」のリメイクである。熱狂的なクルマ収集家として知られるケイジ氏は、同映画に登場する車両の選択や走行シーンの演出に口を出した。ケイジ氏のコダワリが、エレノア。マスタングの中のマスタング、スーパーマシーンの登場を切望したのだ。そして、銀幕の市街地をドロドロ音で爆走するエレノアの姿に、世界のカーマニアが熱狂した。新型マスタングにおいても、そうしたエレノアっぽさを求める声が生まれるのも当然だ。シェルビーGT500をベースとして、ボディパーツとホイールデザインを60年代調にデフォルメ。注目のパワーユニットだが、吸排気系のライトチューニングで(最高出力ノーマル比で)30馬力アップに手控えてある。現代版エレノアは、あくまでもイメージ重視。ハリウッドスター気分に酔いしれるための、ベストアイテムである。

先月号で紹介した67年型をベースに製作されたエレノアは、まさに劇中車を体現したモデルだが、現行型にもエレノア仕様が存在する。フロントを始め、サイド&リヤともに劇中車のディテールを感じさせてくれるパーツが盛り込まれ、まさに映画の主人公になった気分が味わえる。